和の國ブログをご覧の皆さま、こんにちは。
「熊本ゆかりの染織作家展」実行委員の安達絵里子です。
9月長月に入って暑さのピークが過ぎ、学校なども再開して、ほっとするような秋の始まりです。
さて、私は夏休み中に、「進化する織のアーティスト」、一部では「織姫」とも呼ばれている吉田美保子さんにお会いしてまいりました。
熊本生まれ熊本育ちの吉田美保子さんは、各地で「美の修業」をされた後、染織の道を歩まれているのですが、
今年は東京で染織家として独立して10年という節目を迎えられました(現在は神奈川県在住)。パチパチパチ!
個人の作家が「染織で食べていく」というのは、今の時代、なかなかできることではありません。
人気、実力、そのほか集中力に胆力、体力、セルフ・マネジメント力も必要でしょう。
そのすべてを乗り越えて10年――
吉田美保子さんは染織作家10周年を記念して、念願だったサイトの立ち上げをされました。
以前から吉田さんのブログは人気で、その内容はとてもよく整理されていたのでサイト感覚で拝見していたのですが、このたび改めて本格的なサイトを新設されたのです。
上記の吉田美保子さんのお名前をクリックすると、吉田さんのサイトが見られますので、ぜひご覧になってくださいませ。
吉田さんは、現在「ONLY OMLY」のきものに取り組まれているとお聞きしました。
「ONLY ONLY」とは、注文主とのやり取りを重視して、デザインや糸選びなどの最初の最初から制作する「お誂え」のことで、そのネーミングはサイト開設にあたり、吉田さん自身が命名したものです。
ネーミングこそ新しいのですが、完全お誂えのこの形態を、吉田さんは以前から取り組まれており、
かくいう私も「第1回熊本ゆかりの染織作家展」で吉田さんにきもの「Good morning,Koh!」を織っていただいた幸せ者でございます。
この経緯についても、吉田さんのサイトに掲載されていますので、よろしければご覧くださいませ。
「作品ギャラリー」の2010年にあります。
吉田さんが「絵羽のきものは計算して織っているので、衿のお顔に近い部分にはキラッと光る糸を緯糸に織り入れたり、後身頃のお尻部分は特に打ち込みを強くして強度を持たせたりしています」とさりげなく語られるのをお聞きして、見た目の美しさだけでなく、着る人を思って制作されたものには「幸福感」も宿るのだなあ、と思いました。
「ONLY ONLY」は、次回の「第4回熊本ゆかりの染織作家展」でもご依頼を受け付けておりますが、常時受け付け可能ですので和の國にご相談くださいませ。
「こんなきものを作りたい」という思いを、きもの生活20年の店主・國さんのサポートのもと、吉田美保子さんがしっかりと受け止めて唯一無二のきものを作ってくれます。
さて、文字ばかり続けて申し訳ありません。
吉田さんの制作のもうひとつの柱である「オリジナル制作」の近作をご覧に入れましょう。
八寸帯「イエロー モンドリアン」(価格未定)
オランダの抽象画家ピエト・モンドリアン(1872‐1944年)へのオマージュとして作られたシリーズのうちの1点です。
白地にきっぱりとした縦横の線が走り、元気が出るようなイエローとブルーをブラッシングカラー(すり込み絣)で配した帯です。
遠目には、まさにモンドリアンの小気味よさが感じられるデザインですが、この作品はぜひ手にとって染織の味を感じ取っていただきたい、染織の面白さに満ちた世界を形成しています。
デザインの平明さを写し取るなら、真っ白な経糸と緯糸を用いれば白地が構成されますが、吉田さんは染織の味わいを出すために「キャンパスの下塗りのように始めの仕込みで」ひと手間もふた手間もかけて、経糸を綛(かせ)ごと三つ編みにして5、6回薄い染料で染め重ねたそうです。
そうして現れる思いもかけない微妙な表情を経糸に与えているのです。
織りの組織は綾織で、端正な平織とはまた違う、しなやかで味のある地風を楽しめます。
皆さまのお手持ちのきものを頭に思い浮かべてくださいませ。
きっとぴったりと合って、理知的な着こなしができそうなどお思いになられたことでしょう。
八寸帯「ピンク&チャコール」(価格未定)
元気なピンクと落ち着いたチャコールグレーの調和を一本の細い白線が取り持ち、個性的な存在感を放っています。
こちらは「ロスコ・シリーズ」のうちの1点で、アメリカの抽象表現主義を代表する画家マーク・ロスコ(1903‐1970年)へのオマージュ作品です。
ロスコといえば、かつて私は千葉県佐倉市にあるDIC川村記念美術館にて、2色の色の面だけで構成された壁一面のロスコの絵に囲まれて、深い思索の空間へ放り込まれたような思いをしたことがあります。
そんな「深い思索の空間」を感じさせるピンクとチャコールグレーの色の面。
確かにその点においてはロスコの世界を感じるのですが、元気なピンクと落ち着いたチャコールグレーをガツンと組み合わせた色彩感覚、そして芯が通ったような白線の潔さ、これらは我らが織りのアーティスト・吉田美保子さんの感覚です。
ピンクは、天然染料であるコチニールで下染めした後、酸性染料で得たものだそうです。
この色彩感覚は作家の作品ならではのテイストで、なかなか出会えるものではありません。
寡黙なはずの無地場を語るのは、野趣のある織りの質感でもあります。
きびそ糸という太い緯糸を織り入れて、その表情を出しているとのこと。
きびそ糸とは、蚕が糸を吐き出す最初の部分で、繭では外側を形成しています。
太さが均一ではなく扱いにくい糸と聞いていますが、そんな「個性派俳優」がいてこそ舞台に面白みが加わるのは、演劇の世界だけの話ではなさそうです。
ぐっと渋い泥大島なんかに合わせたら「カッコいい女性」になれるかも。
そんな思いを抱きつつ、またも我がタンスを思い出す私……
黒地の紬ならいいかな……
でもなぜか以前に和の國で見た「あの大島紬」が思い出されてなりません!
ということで、第4回熊本ゆかりの染織作家展では、そんな楽しい帯合わせ談義ができたらステキ、と心待ちにしています。
今回ご紹介しました2点の帯は、作家展までにお嫁入りが決まってしまう場合もありますが、
吉田さんは来年年頭に行われる第4回熊本ゆかりの染織作家展に向けて、チャレンジングな作品を準備中とのこと。楽しみです!
今月も気合が入りすぎて長くなりましたが、お付き合いくださいましてありがとうございました。