朝から元気よく仕事をしていた。仕事と言っても昨日夜に出かけたので、店の整理など雑務などだ。鉄瓶のお湯がシュウシュウと沸騰している。「一腹しよう」と思い、豆を引きお湯を入れた瞬間、電話が鳴る。
「お店何時から開いていますか?」「はい、今日はもう店に来ていますので、何時でも結構です。」「分かりました。お伺いします。」
香り高い珈琲を入れつつも、「何時、お越しになるだろう?」と、急に不安になった。
一口珈琲を口に含んだ。美味しいが、熱い。午前中は僕一人なので、作務衣じゃ失礼。「よし、今のうちに着替えとこう。」
ダッシュで事務所に上り、ハンガーにかけていた昨日と同じ着物を手にさっと取り、帯を結んだ。まだ、前結び状態。髪をガチっとセットし、エレベーターで足袋を履き、帯も後ろに回し、店に戻った。珈琲は丁度飲み頃だった。
呼吸も戻った頃、先程お電話くださった…岩野紀子様がお見えになり、帯をお持ちいただいた。その名古屋帯は虫が食って、穴があいていたそうだ。だから、目立たないようにする為に、小さな真珠がバランスよく埋め込まれている。「もったいない」という日本人の心が、美を育んでいる。ボクのウールの着物も、虫が食って、着られなくなって処分した事を思い出した。「パッチワークに布施すれば良かったと…。」物を大切にするために、虫さんは存在しているのだろうか。日本人の知恵を教えてもらった。
雨が落ちて来た。先程干したばかりの洗濯物が濡れる。店のカギをかけ、ダッシュで9階に上がった。午前中、2回目の100m走。そういえば、昨晩も、オークションに出す浴衣を忘れ、途中上通りで思いだしたので、走った。オークス通り界隈で、「着物で走るおっさん」が風物詩にならないようにしよう。