今、「ユネスコ世界文化遺産」という言葉を耳にしたら、富士山を思い浮かべることだろうが、実は二年前に「本場結城紬」が認定されている。僕は二十年前、着物生活を始めた事で、紬が大好きになった。仕入先に「日本女性の憧れのきものは、本場結城紬。絶対知っていた方がいい」と教えてもらった。実際身にまとうと、軽くて暖かく、丈夫で着崩れしなく、安心感がある。
ひと昔前、現地に飛んだ。飛行機やJR、東北新幹線を乗り継ぎ、約四時間で茨城県結城市に到着。秋風に揺れ頭を垂れた稲穂が、目の前に広がる。重要無形文化財という国の認定を受けた三つの工程に身体が震えた。手で糸を紡ぐ、腰の張力で機を織る、柄を出すための絣くくり、達人の域だ。
約半年後、機織りを体験するために、三泊四日の日程で再度結城市へと出向いた。機に乗り左足で縦糸を引きながら織る。足がパンパンだが、一日約七時間で織り幅は二cm弱。「見る」と「する」では大違い。機音からは、日々コツコツ・忍耐・継続と聞こえてくるかのようだ。
昔の人、は結城紬を織っていることを内緒にして生活の為に織ったそうだ。千年以上連綿と続く結城紬は、匠の技と日本人の誇り高き精神性が重なり織り上がってゆく。結城の寿老人は言った。「人生浮き沈みがあるが、とにかく平たく生きること・・・。」一日一日を大事に、日々変わらぬ努力をし続けることの大切さを学んだ。
筋肉痛のまま那須塩原の庭園に足を伸ばした。美しく凛とした菖蒲の群衆は、天に向かって真っすぐ立っていた。