和の國ブログをご覧の皆さま、こんにちは。
「熊本ゆかりの染織作家展」実行委員の安達絵里子です。

あっと言う間に10月。
近所の桜並木も色づいた葉が落葉し始め、いつの間にやら秋景を見せています。
いよいよ袷の季節の到来です。
おしゃれの秋、芸術の秋……。
芸術の秋に先駆けて、先月中旬には熊本県立美術館で第69回県美展、東京では日本橋三越本店で第61回日本伝統工芸展が開催されました。
もちろん熊本ゆかりの染織作家の方々も大活躍されています。

県美展では堀絹子さんが「いざない」と題された、みごとな織り絵羽のきものを出品。
能衣装や武家の熨斗目に見られる絣の締切り技法で経糸を染め、格子や浮き織を交えた作品は、凛とした格調があり、威厳を放つようでした。
同じく県美展で、岡村美和さんは型染の帯「繋」を出品。
江戸切子のように繊細でシャープな祥瑞模様の段と、曲線を描く野バラの段を交互に配した構成には、「柄の繋がり」に心地よい緊張感とリズム感が漂うようでした。

県美展では、紙布織の角帯や、紫陽花模様の絞り染め帯など、心惹かれる作品もあり、熊本の染織作家の方にもっと励んでいただけるよう、私もきものを着続けたいなあと思ったことでした。

東京での日本工芸展では、溝口あけみさんの型絵染きものが展示されていました。
「宙」と題されたきものは、水色系の花を白地一面に咲かせた、花のもつ可憐さと色彩が語る清楚さがあいまって、なんとも美しい花衣。
ひと目で「ああ、着てみたい!」と見る者の心をとらえる魅力がありました。
それにしても作品下に置かれたプレートに「熊本」と書かれた誇らしさよ!
熊本にこんな素敵な作家さんがいらっしゃることを、美意識の高い人たちが集まるこの会場の方々に知っていただけて本当に良かったと思いました。
会場は休日のため混雑していて、りっぱに装われた人も多かったのですが、溝口さんの作品の帯に身を包まれた私は、おかげさまで萎縮することなく背筋を伸ばしていられました。

さて、今月の写真は、恐れ多くも私でございます。
先日も登場させていただきましたし、「品よく美しく」をモットーのひとつとする和の國ブログに何度も登場するには大変申し訳なく思うのでありますが、作品の美しさに免じてお許しいただければ幸いです。

きものは黒に近い濃紺の結城紬のひとえで、岡村美和さんの「桜花」帯を主役にしています。
撮影は9月末の晴れた日。
「桜花」では季節に合わないといえば合わないのですが、「すっとぼけて喜んで着ている」の図です。
晴れ渡った空色の地に、桜の花と雲文を藷版(いもはん)で染めた帯です。
桜の季節に何度か締めて外出しましたが「キャー、かわいい!」と、なぜか頭に「キャー」付きで、人さまからほめていただくことが多いのが特徴です。

着ている自分も楽しい、見ている人をも楽しませて差し上げる、そして楽しい話題も提供してくれる3拍子揃ったお利口さん。
基本的に春に締めて出かけますが、外国の方にお会いするときに国花として身に着けたり、この可愛らしさを着て行く場に提供したいときなど、盛夏を除いてできれば通年お付き合いしたい帯です。

この帯、タイトルにもありますように桜花が主人公でありますが、私は「いい味を出している」雲文も大好きです。
霊芝雲(れいしぐも)という古くから伝わる吉祥文様でありながら、ここでは空色と桜色をつなぎ、丸い花模様が並んだ構成を変化づけるスパイスともなって、縁の下の力持ちとして活躍しています。
こんな温故知新の楽しさが、「ヌーベル・クラシック」と謳われる岡村美和さんらしい作風なのでしょう。

染めは型紙を用いたものではなく、藷版によるものです。
サツマイモを縦に切った面に文様を彫って、布にひとつひとつ染めていきます。
輪切りにするとアクが出やすいのだとか。
絵更紗などにも使われる技法で、型紙によるシャープな染め味とは違い、ほんわか癒し系の染め味が特徴です。
私は藷版については詳しくありませんが、藷版は朴訥とした素人っぽさが特徴でありながら、それが過ぎると野暮ったくなります。
藷版の良いニュアンスだけを引き出しながら、それ以外のところを思い切り洗練度を高めている――これが本作のいちばんの魅力になっているように思います。
ひとつひとつ丹念に染めていく工程は、徳川家康風に言うと一歩一歩「遠き道を行くがごとし」なのでしょう。
作家が精魂傾けて染め上げた帯。
大切に着ていきたいと思います。

第5回熊本ゆかりの染織作家展は、2015年1月3日(土)~6日(火)に予定しております。
気が付けばあと3ヶ月。
どうぞお楽しみになさってくださいませ。

今月もどうもありがとうございました。

「熊本ゆかりの染織作家展」実行委員 安達絵里子