和の國ブログをご覧の皆さま、こんにちは。
「熊本ゆかりの染織作家展」実行委員の安達絵里子です。
梅雨の季節ではありますが、きもののカレンダーでは薄物の時季を迎え、本格的な夏のおしゃれを楽しめるようになりました。

さて、今月の「熊本ゆかり便り」では、先月お伝えしておりましたように、第49回西部伝統工芸展のお話から始めましょう。
西部伝統工芸展とは、公益社団法人日本工芸会の西部支部で行われる公募展です。
日本工芸会は、重要無形文化財保持者(人間国宝)を中心に、各伝統工芸の道を究める作家の方で組織されています。

「熊本ゆかりの染織作家展」でお馴染みの溝口あけみさんは、この日本工芸会の正会員でいらっしゃいます。
正会員とはいえ落選する場合もあるという、レベルの高い公募展で、そのためか毎年行われている展覧会は背筋の伸びるような緊張感が漂っています。
梅雨の晴れ間となった6月23日、我らが溝口あけみさんの作品解説が行われましたので、拝聴してまいりました。

先月このブログにてお伝えしたこともあり、「和の國ファミリー」の方ともお目にかかることもできました。
学校の外でクラスメートに会ったような安堵感とでもいえましょうか。

溝口あけみさんは、自身の帯作品を締めて、さすがの着こなし。
沖縄の紅型作品から始まった溝口さんの解説は、型絵染と紅型との違いや、紅型の地域的な特徴など、簡潔で分かりやすく、聴衆を惹きつけます。

印象に残ったのは、溝口さんの師・釜我敏子さんの作品解説です。
「師との距離は100メートルあったのが、ある時80メートルくらいに近づいたかなと思うことがあったのですが、今回の作品を拝見して、差が150メートルくらいに広がったように思いました」
師のたゆみない創造力の偉大さに関して話されたのでしたが、同時に展覧の場が作家の方たちにとって互いに啓発される場であることを実感し、常に前を向かれているのだなあと思いました。

その作品の良さを語るにあたり「白場の使い方」について触れられましたが、なるほど思い当たるような気がしました。

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いきなり私の写真を挿入して申し訳ありません。
この写真は、溝口さんの解説をお聞きした後に和の國に立ち寄って撮影していただいたものです。
な、なんと、帯は溝口あけみさんの作品「のうぜんかずら」です。

生紬の白地にデザイン化したノウゼンカズラの花を型絵染しています。
ノウゼンカズラは初夏から初秋にかけてよく見かけるオレンジ色の花ですが、ここでは薄いオレンジを花の中心部に留め、紫や水色といったすっきりとした色目で表現されています。

着用時期はひとえの季節が最適かと思われますが、題材となっている花は季節を語るというより、デザインとして用いられている印象がありますので、袷の時季にも締められそうです。
この帯は、今年の「第4回熊本ゆかりの染織作家展」でお頒けいただいた宝物です。
撮っていただいた写真を見て、なんだか自分がとても「いい人」のように思え、着るものに支えられていることを実感しました。

きものは夏大島の縞で、きもの友達の、そのまた友達のお母さまがお召しになったものを、縁あっていただいたものです。
色味が帯の柄色とリンクするので合わせてみました。

さて、前置きが長くなりましたが、この日、溝口さんの解説「白場の使い方」をお聞きして、この帯の魅力のひとつを発見した気持ちになりました。
きっぱりとした濃いグレーの線表現や、洗練された色使いなど、溝口さんらしい美意識が表れた作風ですが、葉に施された「白ぼかし」がこの作品に奥行きをもたらし、美しさを高めていることに気づいたのです。

このぼかしがなければ、息が抜けないような主張の強さがありすぎたかもしれません。
まるで陽に当たって光り輝いているかのような白ぼかし、なんと魅力的でしょう。

「間」の取り方、白の使い方――見えないものを大切にする意識は日本の美の特徴であるとかつて学んだことがあったけれど、それを思い出す溝口さんのお話でした。

今年の西部工芸展で、溝口さんの作品は「舞」と題された帯が展示されていました。
紫色の可憐な花を咲かせるタカラヅカを意匠化した作品です。
白地にグレー、藤色、薄緑など、私が締めていた「のうぜんかずら」の色調と似ていますが、こちらはまた違う奥ゆかしい上品さを感じるデザイン。
1尺の長い型を使って染められたそうで、その長さを生かした流麗な曲線に華やぎと生命力が感じられました。

会場では写真撮影できませんでしたので、文字によるご紹介のみで申し訳ありません。

和の國でお預かりしている溝口さんの作品もありますので、関心のあられる方は、どうぞ和の國までお問い合わせくださいませ。

今月もどうもありがとうございました。
また来月お便りいたします。